何処で寝るにしろ、車外の音に対してはどうしても敏感になる独りの夜。
森の中は独自のしっとり感を含んだ音がしてゆったりと時間は流れるが、海にはまた違うしっとり感がある。
波の音は低く響いて、他の音と聞き違えることが何故かない。
荒れている海でも、凪いでいる海でも、何故か海は、波の音は落ち着く。
目を瞑ると白い波の泡の中に浮かぶ岩の上に寝転んで居るような気持ちになる。
やっぱり海はいい。
潮の満干を見て取る。念のために調べもした。
地形的にも危険性は少ない。
退路もある。
逃げ易さは重要。
遠くに小さく見える宿から漏れる光からは、陽が昇っても見つからぬよう死角へ車を停めた。
車内から漏れる光がないように、通るかもしれない誰からも見つからぬよう車内の支度をした。
見えにくさは重要。
アングラな遊びをする者には、この位卑屈が似合う場所が丁度いい。
だけど海はいい、卑屈も波と共にさらってくれる。
せせらぐ川辺は、一夜を過ごす場を借りる有り難さに変わりは無くとも夜を独りで過ごすにはあまり好みではない。
昼間はいいが、闇に覆われるとどうにも流れの音が人の話し声にきこえ落ち着かないことがある。
ただ、知床の特等の泊地の、姿も見えぬ川とも滝ともつかぬ音だけは別。
清々しい水が弾ける高音と地の底から湧いて出るような低音とが相まって、神々しい音に聞こえる気がする。
それにしても、やっぱり海はいい。
翌朝の車体もガラスも潮の飛沫まみれになろうとも。
波の砕ける音が、ひいて行く泡の弾ける音まで、暗い闇の向こうでも目を閉じさえすれば広がる。
しんみりと近づく寒さにFFのスイッチを入れた。
日中はこの季節にしては大変に暖かかったが、陽が陰り、闇が降りて時間が経てば足元からは冷たさが近寄ってくる。
熱い汁物でも何かあるかと車内常備の食料袋を覗き込む。
たった一泊だけのこと、車内の買い置きで適当に済まそうと、道中買い物はしなかった。
しじみが貝ごと真空パックになった具のカップ味噌汁、インスタントの天ぷら蕎麦の2品が買い置き袋から選んだ夕餉メニュー。
買い置き袋に入れるものを、日常の買い物ついでに好奇心のままに買うのは意外と楽しい作業。
そして入れては忘れ、あぁ、こんなもの買ったのねと時々覗いては思い出し、どういうチョイスだと自分の性格に呆れ。
それもまた楽しい作業。
撮影用に明るくした車内で、
しじみ味噌汁カップにすぽりとはまるどん兵衛リフィル麺。
本当はもっとほわんと薄暗い車内が常。
コッヘル底の集熱板からガスの青い炎が縞々に覗いている。
しじみの味噌汁をぐいと飲み干したら、カップ麺のリフィルがぴたんと入ることに気づき妙に嬉しくなる。
後方に見える黒っぽい鍋は、底部円周にフラックスリングという熱効率を上げる集熱の為のラジエターっぽくも見える鉄板がぐにゃぐにゃと屏風畳みに押し込められた物がついていて、通常のコッヘルよりもかなり早く湯が沸くのでとても気に入ってしまい、最近はこればかり愛用している。
気に入りすぎて、先日には日本では売っていないもう少し小さいサイズを海外から取り寄せる手配までしてしまった。
ただ、今まで愛用していたコッヘルよりも、集熱板の分がどうにも嵩張るのが難ではあるけれど。
ぼうっとしているうちに湯がすぐ沸いて、3分後には、しじみ味噌汁カップでどん兵衛天そばをすすっていた私。
FFヒーターの始動当初のタンタンタン・ゴオー音も止み、ズルズルと麺をすするうちに暑くなってしまって半袖の機能性アウトドア下着一枚状態に。
ちょっと煩い換気扇も回して、対角の窓をチルトさせれば食べ終わる頃には天そば臭ともさようなら。
あぁ、幸せ。
あぁ、なんて贅沢。
メニューは貧相でも豊かな気がするのは何故。
車泊マジック?。
車中泊の夜は、意外にもやることが多い。
シュラフに暖かい空気を含ませておこうと広げておく。
珈琲を煎れる動作の合間に知り合い達にメールを打って自車位置報告。
珈琲をすすりながらチョコをつまむ。
なんとなく地図を眺める。
日中見つけた野宿地の印を見てほくそ笑む。
波の音だけがずうっと響く中、独り遊びに飽きてシュラフに潜り込む頃、友人の愛猫の可愛い画像が送られてきたのを目に焼き付けて瞼を閉じた。
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